東野圭吾 「11文字の殺人」 あらすじと感想
あらすじ
「気が小さいのさ」あたしが覚えている彼の最後の言葉だ。あたしの恋人が殺された。
彼は最近「狙われている」と怯えていた。そして、彼の遺品の中から、大切な資料が盗まれた。女流推理作家のあたしは、編集者の冬子とともに真相を追う。しかし彼を接点に、次々と人が殺されて…。
サスペンス溢れる本格推理力作。
「無人島より殺意をこめて」
この時点で一気に興味をそそられる!
無人島で起きた事件の復讐なんだろうな?
最愛の人を殺された系かな?
死んだと思ってたら実は生きてた系かな?
そのワクワク感を持って読み進められる
物語の視点は女流推理作家の「あたし」
最初に殺される恋人の川津。
彼の遺品整理をすることになったことがきっかけとなり、事件の真相を調べ始める。
「あたし」の友人でもあり、川津を紹介してくれた人でもある萩尾冬子の協力もあり、二人は川津の死がヤマモリ・スポーツプラザ主催のクルージングツアーで起きた海難事故が起因していることに気付く。
まずは小説の取材という名目でヤマモリ・スポーツプラザ社長・山森卓也に会いに行く
本筋とは関係無いが、ヤマモリ・スポーツプラザに出向いた際に、冬子がエアロビクスの教室を見て「学校の教室と同じなのよ。先生の近くにいる人ほど出来がいい」と一言。基本的に先生から離れよう離れようとしていた私には「会心の一撃」でした
本筋に戻り、この辺りで出てくる登場人物が、まー全員怪しく描かれていて「この人が犯人かな?いやでも、あからさま過ぎるだろ。でもその裏をかいて。」みたいに材料が出そろう前に犯人捜しスタート
とりあえす、あからさま過ぎる人物は早々に殺されてしまう。
そして、殺した後に挟まれる犯人のモノローグ
1周目に読む時は「誰が犯人だろう?」とワクワクして
2周目に読む時は時系列と犯人が分かっているので「あーそういうことだったのね」と二度目線を変えて楽しめる!
話は進み「あたし」は海難事故の起きたクルージングツアーに参加していた11人の参加者リストを手に入れる
ヤマモリ・スポーツプラザの社長、家族、社員、そこに社長に縁のある人たちを加えて総勢11人
そして、その参加者に次に書く小説の取材としてツアー当日の流れを聞いていく
海難事故で死んだのは「竹本幸裕」
聞き込みをしたメンバーは何かを隠してる様子がありながらも事件の概要は一緒だった
諦めずに海難事故について調べを進める「あたし」
その後も何人かの当事者にあたる
しかし海難事故の参加者には明らかに、かん口令が敷かれている
同時期に「あたし」の家に誰かが忍び込み「手を引かねば殺す」と文章で勧告
「あたし」が真相に近付いている証拠。そして、そんなことがあっても事件を調べようとする「あたし」強すぎる
再度、海難事件について聞くために、改めてヤマモリ・スポーツプラザへ
バーベルを喉に当てられ、危険にさらされ、社長・卓也は塩対応
そんな状況でも真相に迫ろうとする「あたし」強すぎる
そして社長の娘・由美を誘拐寸前の聞き込み方法で、海難事故当日の有力な情報を仕入れる
そんなことされたら、それは相手も力業に出る
「あたし」の留守中に家に忍び込み「あたし」を待っていた
待っていたのは山森社長
「ここはそうだろうなー」って思いながら「でも直接殺した訳じゃないんだろうなー」と推察
そして、山森社長は海難事故のあったクルージングツアーを再度敢行
前回の海難事故に居合わせたメンバーに「あたし」、冬子を含めてという直接対決
行かないと話が進まないけど、敵だらけ完全アウェーの孤島に行ける「あたし」強すぎる
山森社長は一言「じゃあ海で会おう」
(「あたし」の部屋の合鍵を投げ捨てながら)
「あたし」も「じゃあ海で」
決戦の火ぶたは切って落とされる!!
片方は娘を誘拐寸前、もう片方は合鍵を作って不法侵入
そのメンバーで向かう孤島
もうアウトローの世界観
もちろん孤島で最後の事件が起きる
ネタバレすると、最後は竹本の恋人が返り討ちに合う訳で
なんでこの人が殺されるん?って考えていくと、なんとなーく相関図が完成する
無人島での殺人事件が歯切れ悪く終わり、メンバーは島を後にする
そして「あたし」は竹本の彼女の遺品整理を手伝うことに
そこで、竹本自身が記した海難事件の全容を記したものが見つかる
竹本の彼女が竹本の死後見つけて持ってきたものだった
ついに「あたし」も海難事件の真相を知る
以前の海難事故で死んだ竹本は本当は助かっていた
しかし、カップルでツアーに参加していた彼の方が溺れてしまいそうになる
誰も助けに行こうとしない
そこで手を挙げたのが竹本だった
しかし彼を助ける代わりに彼女の方に「体」という見返りを求める
竹本は彼を見事助ける。そして彼女に近付く
彼の方が一通りの事情を知り竹本を殺そうとする
そのことを知っていたツアーメンバー
竹本が行おうとした行為が非道であると、ツアーメンバーは自身の行いを正当化し犯行を隠すことを決意
そして竹本を海に投げて自分たちは口裏を合わせる
そのことを知った竹本の恋人が復讐心で犯行を重ねて行く
誰しも自分が一番かわいい→保身
そこで唯一その保身の殻を破った竹本
みなぎるバイタリティからくる見返り
愛する人が助かるならと自分の体を差し出そうとする彼女
周りの人はそれを見て見ぬふり→保身
彼が竹本を殺そうとしてそれを隠ぺいする→保身
口裏を合わせてなかったことにする→保身
すっごいカッコ悪いけど、人って弱いものですよねー
特に多数派にいるときは
でもやっぱり誰しも良心の呵責があって
それを保身と天秤にかける
その天秤を持ち続けている方が、後々辛いのかもしれない
だから一定数の人はその天秤を手放したくて白状する
カップルからすべての真相を聞いた「あたし」
警察に届けることはせず、二人のもとから去る
カップルは今後も天秤を持ち続けて生きていくのかな?
この小説の刊行は1987年
自分が読んだ文庫版は1990年
スマホも無くやり取りはメールか手紙
スポーツジムの雰囲気も登場人物の容姿のイメージも、一昔前のイメージがノスタルジックで新鮮に読めた
クルージングツアーの名簿をもらうシーンで、「あー確かに昔は学校とかでも名前、電話番号、住所の入った名簿もらったなー」なんて思い出しました
「無人島から殺意をこめて」
このパワーワードを皮切りに、テンポよく軽快に物語が進んでいく読み始めたら止まらない一冊でした!
いやー次は何を読もう
では!おつかれ様でした!